第37回 京菓子司 末富

 第37回は、老舗の和菓子屋さん『末富』さんです。明治26年(1893年)、京菓子の老舗『亀末廣』から暖簾分けし、開業しました。
 『末富』さんはもともと寺院とのつながりが深く、お供物や行事ごとの菓子や、茶人用の「蒸菓子」や「干菓子」で知られていました。今でも寺院の菓子は『末富』さんの主要な仕事となっていますが、日持ちのする『野菜せんべい』の発案により、一般の方にも広く愛される人気和菓子屋となりました。芸術性の高い「美しさ」と納得の「美味しさ」は、感動と笑顔を届けてくれます。
 『透き綾(すきや)』は、薄くさらりとした感触の絹の布“透き綾”をイメージしています。葛を薄く作って四角に切り、うす紅に染めたあんを四方から包んだ、口当たりの良さと葛の透明感が相まった、暑い夏にピッタリの美しいお菓子です。
 “古今和歌集”の歌の一つから銘を付けられた『夕さり』は、黒砂糖を混ぜた砂糖を煮溶かしたところに寒天を入れ金箔を散らした、“夏の夜に光り交わし呼び合うホタル”のようなお菓子です。
 『ほおずき』は錦玉羹で真っ赤なあんを包み、ほうずきのような形に作っています。艶々とした、宝石のようなお菓子です。
 新暦の9月の7日か8日を“白露(はくろ)”といいます。『白露』は、その時期夜のうちに降りた露が草木の葉をしっとりと濡らした風情をイメージしたお菓子で、緑のきんとんに寒天の露を散らしています。
 京の風土と文化が醸し出す季節の移ろいの表現や物語が『末富』さんのお菓子には詰め込まれています。“お菓子のお話”を聞くと、また一段と京菓子の奥深さや魅力が感じられるのではないでしょうか。