第170回 堀金箔粉株式会社

 第170回目は、310年以上続く金箔をメインとした工芸用材料を扱っている『堀金箔粉株式会社』さんです。創業は1711年(正徳元年)初代砂子屋伝兵衛とその弟が滋賀県近江今津から京都へ移り、徳川幕府から支給された金を使って金箔を打つ職人としての歩みを始めました。今の西洞院五条で商売をしておりましたが、1864年(元治元年)に京都で起こった蛤御門の変により店が全焼、現在の御池通へ場所を移しました。
 金箔といえば金沢が有名ですが、京都でも古くから伝統工芸や仏壇、ふすま絵、文化財などにおいて、金箔が欠かせない存在として使われてきました。金箔は、製品に直接的な機能を加えるものではありませんが、使用することでその価値を一段と引き上げる「箔をつける」という役割を果たしています。たとえば、金閣寺の再建や御金神社の金の鳥居など、日本文化を象徴する建造物にも金箔が用いられており、堀金箔粉株式会社はこのような重要な文化財の装飾にも携わってきたのです。
 しかし、金箔の需要は時代とともに大きく変化します。30年前、10代目社長の堀智行さんが入社した全盛期に比べて、金箔の需要は10分の1以下にまで減少しました。従来の仏壇や和装業界だけでは事業を維持するのが難しくなっていた中、先代が口にしていた『手回しせねば雨が降る』を実践してきた効果が発揮されます。堀社長は全国の様々なモノ創りとの関わりの中から販路拡大と需要の創出に取り組んでいました。その結果、今では身近な食品用の金箔の開発や特殊印刷向けの転写箔、金色塗料・金銀インキなどの新製品を次々と取り入れ、新しい市場を開拓し、加飾や美粧の分野で「光る」素材メーカーとして業界内外での評価を高めることができました。
 2021年にオンラインショップ「至善堂」を開設し、将来性のある海外市場にも目を向けBtoCの商品販売を行っています。現在、日本語だけでなく英語や中国語にも対応しています。さらに、InstagramやYouTubeといったSNSを通じて職人技の素晴らしさを世界に発信することで、国際的な注目も集めています。堀社長は「無理をせず身の丈に合った商売をしていきたい。時代に合わせてゆっくりと変化し、地に足をつけて堅実に商売を続けていきたい」と語っておられました。堀社長の温かい人柄も、会社全体のアットホームで優しい雰囲気と、従業員の定着率の高さにつながっていると感じました。今後のますますのご発展が楽しみです。