第169回 株式会社 おめん

 第169回目は、昭和42年に創業した銀閣寺の『株式会社おめん』についてご紹介します。創業者の品川登美さんは京都で生まれ、群馬県出身の要治さんと結婚。その後、戦況の激化を受け、昭和18年に子供を連れて夫の実家である群馬県伊勢崎に疎開しました。昭和22年に要治さんが帰還しましたが、会社の都合で隠遁生活を強いられ、登美さんが一家を支えることになりました。その後、登美さんは転職を繰り返し、44歳の時に京都銀閣寺前でうどん店『おめん』を開業しました。疎開中に、義母が家族と従業員約80名を取りまとめ、食事の時間になると「おめんやでぇ~」と家中に明るい声が響き渡っていたことが、「おめん」の名前の由来となっています。登美さんは「吉田山荘」で料理や献立を学び、その経験をもとに、家庭的なおばんざいと薬味たっぷりのつけ麺うどんを提供しました。その結果、『おめん』はたちまち評判となり、地元京都の人々に愛されるお店として知られるようになりました。
 登美さんの三男、品川幹雄さんが世界を旅し、最後にニューヨークへたどり着いた頃、アメリカでは「禅」や「和食」がブームになっていました。息子に会いにアメリカを訪れた登美さんは、その食生活が非常に不健康であることに驚き、「息子が世話になっているアメリカに恩返ししたい」という思いから、ニューヨークへの出店を決意しました。昭和56年、三男の幹雄さんと次女の清水満理子さんを中心に、うどんをメインにした日本食店『おめん あぜん』を開店しました。京都本店と同じように、胡麻、きんぴらごぼう、野菜を入れたつけ麺が評判を呼び、ニューヨークでも「おめん」の名で親しまれ、合成添加物や化学薬品、精製された白砂糖を一切使わず、伝統的で自然な製法にこだわる姿勢が、多くのファンを魅了しました。
 創業者の登美さんが大切にしてきた「食を通して社会に貢献する」という理念を受け継ぎ、「食べること」が良い思い出となるような場を提供したいと考えています。特に、インバウンドのお客様が増える中で、ビーガンやベジタリアンの方々も、一般の方々と同じお店で一緒に食事を楽しめるようにと、ベジタリアンの方も食べていただけるメニューも用意しております。また、社会貢献の一環として、「大文字登山弁当プロジェクト」を立ち上げました。大文字登山弁当1つにつき100円を大文字保存会へ寄付し、大文字山の環境保全や五山送り火という伝統行事の継承に貢献しています。また、定期的に清掃登山を行い、参加者を募って山の美化活動を進めています。京都市内外の各種団体にも参加を呼びかけ、地域ごとに個性豊かな「登山弁当」を通じて、山の美化と伝統文化の支援活動を広げていきたいとおっしゃられていました。伝統を受け継ぎながらも、新しい挑戦をし続ける社長の姿勢が、多くの人々に感銘を与えています。古き良き価値観を大切にしつつも、現代のニーズに応えるべく革新を取り入れるその姿勢は、企業の発展にとって欠かせないものだと感じました。